うつ病全般

うつ病の歴史-日本史編

以前知り合いが

 

「1990年代まで日本ではうつ病は知られていなかった、とラジオで言っていた」

 

という話を聞きました。

 

え?!昔はうつ病って知られていなかったの??

 

ということで今回は 「うつ病の歴史 - 日本史編」いってみたいと思います。

 

祟り・憑きもの - 精神疾患の原因

日本での精神疾患は「祟り(たたり)」か「憑きもの(つきもの)」のためとされてきました。

 

神の祟り、狐憑き、狸に化かされたり、河童に尻子玉(しりこだま)を抜かれる、

 

なんてのもその類(たぐい)だと思われます。

要は『日本昔話』によく出てくるような感じのやつですね。

あれは子供向けにカスタマイズされたお話しですが、 実際も中世ヨーロッパの魔女狩りほどの激しい迫害や殺戮は、日本ではなかったようです。

 

治し方① - お寺で治す

原因が「祟り」や「憑きもの」ですから、治してもらうのも 神様関係、お寺が基本です。

 

有名なのが京都にある岩倉大運寺(いわくらだいうんじ)というお寺です。

 

このお寺、加持祈祷(かじきとう)を行う密教のお寺らしいのですが、 平安時代に後三条天皇という人の娘さんが精神を患った時に 担ぎ込まれたそうなんです。

で、この娘さん、お寺で滝に打たれ、泉の水を飲んだところ、 見事復活。

偉い人の娘さんが治ったということでたちまち噂が広がって、 このお寺の周辺に精神疾患コミュニティができたそうなんです。

 

のちにこのコミュニティから「岩倉精神病院」「北山病院」という 病院ができました。

 

治し方② - 浄土真宗・漢方薬とお灸

鎌倉時代になると「浄土真宗」という仏教の宗派が勢力を伸ばしてきました。

それにともない精神疾患の治療も、浄土真宗のお坊さんたちが積極的に行ってくれるようになります。

 

治療法は漢方薬とお灸。

先の、滝に打たれ、泉の水を飲むに比べると若干近代的になってきたような印象を受けます。

(密教の治療を否定しているわけではありません)

 

このような治療をしてくれた浄土真宗の主なお寺は以下の通り。

  • 光明山順因寺(愛知県岡崎、1394年~)
  • 浄見寺(大阪南部、16世紀末)
  • 順行寺(新潟・三条市近郊、18世紀)
  • 専念寺(広島・廿日市市近郊、19世紀)

いずれのお寺も明治以降に精神病院になったそうです。

 

収容施設① - 宗教型施設

このように日本にも昔から精神疾患患者がいました。

この人たち、どこで暮らしていたのでしょう?

一つは「宗教型施設」

いわゆるお寺ですね。

滝に打たれたり、漢方薬を飲んだりして治療をしながら 寝泊りしていました。

 

収容施設② - 拘禁型施設

もう一つは「拘禁型(こうきんがた)施設」と呼ばれるものです。

これは何かといいますと、 悪者を閉じ込めておく施設に近いものです。

 

士・農・工・商・エタ・非人

 

って聞いたことある人もいるかと思います。

江戸時代の身分制度ですね。

この中で、エタと非人は人でない身分とされていました。

 

嫌ですねー、身分差別。

 

で、当時悪いことしたやつへの罰として、身分を非人へ落とすという刑がありました。

そしてこういう悪いことして、 非人になったやつら専用の病人収容所があったんです。

非人たちを溜めておいたから、その名も「非人溜め」

 

その中にはもちろん病人の非人もいましたが、 罪を犯した精神病者、「乱心者」なんて呼ばれた者たち も収容されていました。

中でも浅草の非人溜めには、乱心者専用の檻があったそうです。

 

この浅草非人溜め、のちに上野公園内に 東京府癲狂院(とうきょうふてんきょういん) という精神病院として開設、さらに移転し 現在の東京都松沢病院となりました。

 

少し話がそれましたが、悪いことをして非人に身分を落とされた 「乱心者」である精神病者は、「非人溜め」のような 「拘禁型施設」に収容されていました。

 

収容施設③ - 座敷牢・私宅監置

「宗教型施設」と「拘禁型施設」で、 全国の精神疾患者の収容数を賄えたか?

 

賄えるはずがありません。

ヨーロッパの「拘禁型施設」は数がかなり多かったようですが、 日本では数えるほどです。

お寺だって限りがあります。

 

じゃあ残りの患者たちは?

 

大部分は家の中に「座敷牢(ざしきろう)」という牢屋を作り、 その中に「私宅監置(したくかんち)」という形で収容されていました。

江戸時代には幕府がこの「私宅監置」を法で認めていたそうです。

 

日本の精神疾患の闇の時代 - 文明開化と隔離措置

うつ病を患っている私が「私宅監置」と聞くと、 「う~ん、抵抗あるな~」という感じを受けます。

ただ、精神疾患患者の収容施設がほとんどなかった 江戸時代ということを考慮に入れれば、 「私宅監置」というのは、まぁ仕方がなかったのかな、 とも思います。

 

ただ江戸後期から明治にかけて日本の近代化が進むと、 精神疾患者に対する扱いというものが一変します。

私のイメージでは「収容」から「隔離」に変わった感じです。

 

私は昔、塾の講師をしていたことがありました。

小学生に日本史を教えていたのですが、近代史の分野の問題に、

「諸外国から文明国と認められるために、精神病とライ病(ハンセン病)を隔離する」

という文章があったのを覚えています。

「私宅監置」が「収容」から「隔離」に変わった瞬間です。

 

その後、1900年に明治政府は、諸外国から精神疾患患者たちを隔離のための、 「私宅監置」を合法化する「精神病者監護法(せいしんびょうしゃかんごほう)」を制定します。

 

この時を境に日本の精神疾患者たちは、 満足な治療を受けることもできず、死ぬまで座敷牢に閉じ込められることになるのです。

日本のうつ病の闇の時代です。

 

闇の解放者① - 呉秀三と精神病院法

江戸時代末期にドイツに留学していた呉秀三(くれしゅうぞう)という人がいました。

この呉秀三が留学から帰ってきて、日本の精神医療制度を見たそうなんですが、 そのダメさ加減にビックリしたそうなんです。

余りのダメさ加減、そして精神疾患患者が可哀そう過ぎて、 こんな言葉を残したそうです。

「二重の不幸」

わが邦(くに)十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに、 この邦(くに)に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし

(出典『精神病者私宅監置ノ実況』1918年)

つまり、

精神疾患だけでも可哀そうなのに、

「精神病者監護法」で国をあげて隔離かよ!

法律おかしいだろ!

治療させてやれ!

病院作れよ!

 

訳は若干おかしいですが、気持ちはきっとこんな感じです。

この信念のもと、呉秀三は「私宅監置」をはじめとする、 日本の精神医療制度を徹底的に調査し、叩きに叩いたそうです。

 

叩いたそうです。

>精神疾患だけでも可哀そうなのに、

 

叩いたそうです。

>法律おかしいだろ!

 

叩いたそうです。

>治療させてやれ!

 

叩いたそうです。

>病院作れよ!

 

そして1919年「精神病院法」が制定されます。

「私宅監置」ではなく、都道府県に公立精神病院を設立する法律です。

ただ残念なことに、実際は公立精神病院はほとんど設立されなかったそうです。

 

理由は金。

 

時代は明治、 殖産興業(しょくさんこうぎょう)と富国強兵(ふこくきょうへい)。

ガンガン金をもうけても、全部兵力増強に使っちゃったんですね。

近代国家に追いつけ追い越せ、そればっかり。

 

結果、医療や福祉にまわす金は残らず。

せっかく呉秀三が決死の思いで制定させた法律は形だけのもの。

 

制度はなしくずし的に民間にゆだねられることとなりましたが、 なんせお金がありませんのでなにもできず。

「私宅監置」も依然として健在。

 

精神疾患者たちは隔離され続けられます。

 

闇の解放者② - GHQと精神衛生法

その後、第二次世界大戦が終わるまで、闇の時代は続きます。

 

第二次世界大戦後、1950年にGHQ主導で「精神衛生法」という法律が 制定されます。

この法律でようやく「私宅監置」が廃止されます。

結局、闇の解放者はGHQだったのです。

 

呉秀三の決死の思いを知った後では少し残念な気がしますが、 まぁ閉じ込められていた人々からしてみれば、 日本人だろうがアメリカ人だろうが、助け出してくれた人が救世主です。

 

新たな闇 - とりあえず病院作って全員入れておけ

ここで新たな問題が浮上します。

今まで座敷牢に隔離されていた患者たちの新たな受容れ先です。

 

「私宅監置」を廃止したはいいけれど、新たな行き場がなければ 患者たち、全員野垂れ死にです。

「私宅監置」の廃止はあくまで日本が行ったこと、GHQはあくまで主導しただけです。

勝戦国の無茶振り、敗戦国大慌てです。

 

とりあえず、建物がないとどうにもならないので、

とりあえず、私立精神病院がたくさん作られました。

とりあえず閉鎖病棟(檻付き外出不可)です。

 

で、患者たちはもちろん入院できるお金なんて持ってません。

なので裏技を使いました。

 

緊急を要するヤバい患者がいる時は、 知事の権限で「措置入院」という強制入院をさせることができるんです。

で、この時かかる入院費って、タダ(正確には公費医療という)なんです。

しかも「ヤバくなくなりました」と認められるまで無期限で。

 

とりあえず、ヤバくないけど、

とりあえず、全員ヤバいことにして、

とりあえず、作った檻付き閉鎖病棟に、

とりあえず、全員隔離されました。

 

一応病院に入院させた体を成していますが、 言ってみれば、ちっちゃい座敷牢から出して、 でっかい座敷牢にぶちこんだだけです。

病室に窓はあったかもしれませんが、 精神疾患患者が光を浴びることなどありません。

 

さらに闇 - 病院外へ出すな!薬の大量投与・ロボトミー

結局GHQ先導で制定された「精神衛生法」の行き着いた先は、 収容所のような「とりあえず檻のある病院」への大移動。

そのため、本来の目的である患者への治療ではなく、 患者を病院内に留まらせる(とどまらせる)措置がとられます。

 

代表的なものが向精神薬の大量投与。

もちろん再起不能者も多数出ています。

 

さらに非人道的なものが、ロボトミー手術。

脳の前頭葉切除手術です。

 

なんつーかもー、ロボトミーも当時は有効だと言われてたという事は分かる。

分かるけどさー、それって最終手段だろ。

だって前頭葉って脳だよ脳。

お前らだって脳みそちょん切られちゃったら嫌だろ?

なあ。分かるよなぁ。

 

...失礼いたしました。

とにかくこのように、

 

とりあえずの閉鎖病棟で、

とりあえず裏技入院で、

とりあえずガンガン薬投与されて、

それでもダメならロボトミー。

 

治療なんて行われていません。

人権なんてありません。

 

とりあえずのツケ - 先進国で精神疾患入院者数が多い国、断トツトップ日本!!

こんな感じで「とりあえず」を続けてきた結果どうなったか?

 

少し古いデータですが

【1985年現在】

・精神病院のベット数:330,000床

 →日本全ての病院のベット数の約1/4の数

 →先進国中、断トツトップ

平均入院日数:540日

 →欧米平均:約14日前後

 

とりあえず世代の精神疾患者たちは、 精神病棟から出ることができなくなりました。

精神疾患のためでなく、制度のためにです。

政治に文句を言っても病気が良くなるわけではありませんが、 それでもこれは政治のせいです。

 

その後、看護師が入院患者をリンチで殺害するという宇都宮病院事件(1983年※)が起こりました。

(※宇都宮病院事件:殺害発生→1983年 / 告訴・裁判・逮捕→1984年)

 

この事件を機に、精神保健法(1987年)が制定されます。

この精神保健法で初めて患者の人権と社会復帰対策が本格的に検討されます。

 

この記事の冒頭でお話しした

 

「1990年代まで日本ではうつ病は知られていなかった」

 

この1990年代というのが、精神保健法(1987年)の 患者の社会復帰対策が機能し始めた時期というあたりなんですね。

 

うつ病はじめ、精神疾患患者にとって非常に重要な法律です。

 

私がうつ病になったのが、1999年ですが、 もし1987年以前にうつ病になっていたらと思うと ぞっとしますね。

 

まとめ

日本では古来から精神疾患は「祟り」や「憑きもの」とされてきました。

 

お寺で滝に打たれたり、漢方薬やお灸での治療を行う一方、 悪いことをした一部の精神疾患患者は「乱心者」として 「拘禁型施設」である非人溜めに収容されていました。

しかし収容施設が圧倒的に少ない日本、 大多数の患者は個人宅の「座敷牢」の中に収容されていました。

 

江戸末期から明治初期、近代化を目指した日本は これらの精神疾患患者を「ないもの」とします。

 

「ぼくたちの国は近代的だから、そんな非近代的な人間はいないよ」

 

蔑まれることや殴られることではなく、存在を否定されること。

もっとも過酷な差別です。

 

ある時は座敷牢の中に隔離され、ある時は閉鎖病棟の中に隔離され、 精神保健法(1987年)が実際にその効力を発揮し始めるまで、 精神疾患患者はその存在を世間から隠され続けられます。

 

「最近日本はうつ病患者が一気に増えた」

 

最近一気に増えたんじゃないんです。

最近「隠されなくなってきた」だけなんです。

 

2000年代の半ば頃から医療的にも社会制度的にも、 うつ病治療は飛躍的な進歩を遂げます。

本当に手厚い治療を受けられるようになったと思います。

 

一方で患者数の増加と根強い偏見、こればっかりは減りません。

これだけの黒歴史があったんです。

そうそう簡単に減るもんじゃありません。

当分の間は自衛が必要です。

 

もうすでにうつになってしまった方、こちらを読んでゆっくり治していってください。

 

まだうつになっていない方、こちらに分かりやすく書いてみましたので、よかったら読んでください。

 

「うつ病の歴史-西洋編」はこちらから

 

追記

当初は「うつ病だった歴史上の人物」の特集を 記事にしようと思ったのですが、信頼の置けるソースが見つからず、 また見つかったとしても書籍数十冊にわたるため、 今回は主に制度の歴史、黒歴史をあえて記事にしました。

 

医療と政治、戦争や人権など考えさせられることは色々ありましたが。

 

ロボトミーだけは嫌だなー。

治ると言われても嫌だなー。

 

エガス・モニス。

 

ロボトミーでノーベル賞とったらしいけど。。。

 

いやー、ないない。

 

脳みそ大事。

 

参考

 

書籍

『精神医学の歴史(レグルス文庫)』

 

『精神医学の歴史(文庫クセジュ)』

 

『これならわかる!精神医学(史上最強図解)』

 

『ウルトラ図解うつ病』

 

webサイト

 

 

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